
千葉のラーメン屋の中で、最も有名で、人気のある店の一つが、この樹幸だろう。石神氏も毎年氏の
ラーメン本でこの店を紹介しているし、巨匠、佐野氏も、某
テレビ番組で樹幸を絶賛していた。「このお店は、俺の昔の味に通じる部分があるよな。真面目な店主だ。俺の書いたラーメンの調理本を読んで研究したらしい。すごいよな。これだけの味ができるんだから」といったことを話していた

。
樹幸のラーメンについては、色んな所で色んな人が「評価」「判断」しているので、これ以上説明する必要はないんだろう。石神氏は、このラーメンを、「バランス感覚に優れた飽きのこない上質ラーメン」と解釈している。そして、次のようなコメントを残している。
「以前はビストロだったが、老若男女誰でも気軽に食べられる
料理を出したいとラーメン屋に鞍替えした。内装はいまだパステル調でラーメン店らしかぬ雰囲気だが、味は鶏の旨味と醤油の香り、油のコッテリ感が三本柱のオーソドックスな中華そば。カツオやサバは前面に出しすぎず、
インパクトより飽きのこない味を目指したことが伺える。背油の有無で『あっさり』か『こくまろ』が
選べる。麺はカン水控えめの特注で、醤油の香りがよく乗り細めながら伸びづらい。チャーシューは鉄板で焼いてから提供している」(石神秀幸,ラーメンSELECITON2005,p.110,
双葉社)
このように石神氏も樹幸を高く評価している。ビストロ(フランス料理
レストラン)からラーメン屋への転向は、千葉でも話題になった。チャーシューも話題になった。土気という地域(郊外のニュータウン)も話題の原因だった。おそらく評論家的にはこうしたことが際立っていた。
ボクはこの店に度々行くし、開業以来ちょくちょく食べている。そういう視点から、樹幸を考えてみた。もちろんラーメンは「飽きのこない」丁寧なラーメンだ。醤油二種類、しおラーメンがメインで、昨年からつけ麺もはじめている。チャーシュー丼も繊細な外見と兆度よい量で食べ手を満足させる。また、最後に残った
スープにご飯を入れて食べる、という手腕も面白い。ラーメンそのものにたくさんの魅力がある。
しかし、樹幸の魅力はそれだけではないと思う。樹幸の魅力ってなんなんだろう。なぜこれだけ多くの人に愛されるのだろう。その根拠は何なのか。ラーメンの食べ手(受け手)は素人であり、細かい評論をして(反省して)この店を評価するわけではない。反省以前の魅力を考えたくなった(つまり、素人ラーメン好きがなぜこの店を好むのか)。
改めて今考えてみると、「奥様の丁寧な対応とお洒落な店内環境の調和」が思い浮かぶ。このお店はとにかく気持ちよい。綺麗だし、窓が大きいから店内が明るい。6人がけの大きな
テーブルも気持ちよい。さらにここに接客・対応の素晴らしい奥様がいる。有名なご主人は奥の厨房でちらりとかいま見ることができる。しかし、主に客が見るのは奥様だ。そこに丁寧なラーメンが出てきたら、もう「満足感」は得られてしまう。ラーメンを食べる前に、すでに客は「気持ちよい」のである。また、店内の明るさもその大きな要因となっているだろう。
あと佐野さんも言っていたが、麺の強さ、麺のおいしさだ。ここの麺はとにかく圧倒的な存在感を持っている。麺が自らを主張するのである。つけ麺の麺は格別だった。ブツリブツリと切れる感覚が忘れられない。しおの場合、細麺と太麺の選択が可能で、どちらもそれぞれ個性がある。これは素人でもすぐに実感することだろう。もちもち感がたまらない。
そして「美的感覚」だろう。とにかく見た目が美しい。味も美しいのだ。「美」が問題なのだ。色んなラーメンを食べてきて、おいしいとかコクがあるとかしょっぱいとか色んな印象を受けてきた。このお店は、そういうのではなく、「美しい」、「丁寧」といった言葉がぴたりと当てはまる。奥様も、「主人はとても繊細で、いつも迷ったり悩んだりしながら、ラーメンを作っています。真面目なんでしょうね」とおっしゃっていた。つまり「芸術」に限りなく近いラーメンだ、というのがこの樹幸の魅力なのではないか。素人は、直感的に、この美を「快適なもの」として受け取っているように思える。
以上、樹幸の再考をしてみました


