カウアイ島 四日目!
ハワイの滞在においては、とにかく時差ぼけが辛い。朝起きるとき、日本では夜中の三時ころ。で、ハワイで寝るとき、日本ではまだ午後七時。夜は全然眠くないし、朝はとにかく眠い。ドイツは逆。夜はとにかく眠くて、朝は、早朝に目が覚めるし、すっきりしている。この違いは、短期滞在の場合には、とても大きな意味を持っている。
さて、四日目。いよいよ、カウアイコミュニティーカレッジでの
勉強が始まる。このカレッジは、現在700名の学生を抱えている。この人数は、特に多いわけではなく、むしろ学生数は減ってきている、と言う。このカレッジの教員のヒロコ・メリット先生も、高校に出向き、カレッジの説明・案内を行っている、と話していた。昨日も梅ちゃんが話していたが、この島の少子化問題は非常に深刻なようだ。また、ヒロコ先生も、この土地の物価の急激な上昇について、指摘していた。数年前に比べて、土地の価格は三倍以上に膨れ上がっている、というのだ。その理由は、本土の裕福なアメリカ人たちが、この島の土地を買い取って、それをこの島の住民に高額で販売しているから、だという。もちろん、土地の所有者たちは、この島に住んではいない。仕事はない、住む家も持てない、その上、何もない、たいくつ、それゆえに、若者たちは、この島を離れていく、というのだ。午後、たまたまこのカレッジの18歳の学生と話していて、僕が、「このカウアイ島はどうなの?」と聞くと、女子学生が、こういった。「それは人によりけりね。都会好きな人にとっては、この島は退屈でしょう。で、冒険好きな人にとっては、この島はGOODでしょう」、と。で、僕が、彼女に、「あなたはどっちのタイプ?」と聞くと、苦笑いを浮かべつつ、「私はこの島で育ってきたし、ずっとここだから・・・ 分からないわ」、と答えてくれた。なるほど。もし彼女が、
アメリカ本土へ行き、数年暮らしたとしたら・・・ きっと彼女は、自分がどっちのタイプであるかに気付くことだろう。けれど、もし前者だったら・・・ きっと島には戻らないのだろう・・・
さて、カレッジ。ここは、非常に大きな敷地に、一階立ての建物が、数十個、ゆうゆうと聳え立っている。なぜ平屋の建物しかないか、というと、もともとハワイでは、<やしの木よりも高い建物を建てない>という文化が根付いているからだ、と聞いた。また、広大な敷地が存在していて、縦に建物を延ばすよりも、横の方が、コストパフォーマンスが良いのだそうだ。また、ハワイには
地震がなく、日本のように耐震対策が整っていない。しかし、1992年のハリケーン以降、徐々に、災害対策も考案されつつある、という。なお、このカレッジには、教養学部、経済学部、看護学部、工学部がある。一番大きいのは、教養学部だそうだ。このカレッジを出た後、働く人もいれば、さらに勉強を続ける学生もいる。現に、このカレッジの学生の卒業生たちの中には、実際にすでにホテルなどで働いている若者もいる。黒人のJoh君(28)は、ここの学生だが、
結婚していて、奥さんが働きに出ているらしい。そうそう、カウアイの男子学生諸君は、ケセラセラな人生、行き当たりばったりの人生を送っていると聞いた。ノリ的には、イタリア人っぽいのかな? というか、熱い国なので、あまり思考することは好きではないらしい。けれど、中には、文学少年や、哲学好きな学生もいた。僕は、今回、教員という立場でハワイに来ているので、こっちの学生も、僕を先生として認識している。昨日も、一人の真面目そうな学生と話していたら、彼が哲学好きであることが分かった。特に、東洋哲学に興味がある、と言っていた。そこで、プラクティスをしてみた。僕が、「ここにコップがあるよね。じゃあ、なぜここにコップがあるの?」と、問うてみた。そうしたら、「いや〜、僕ののどが渇いていて、僕がここに持ってきたからだよ」と、答えてくれた。そこで、僕は、「それは分かる。じゃあ、なぜここにコップがあるということを君は知っているの?」と、尋ねた。そうしたら、絶句して、「Umm…」と言っていた。しばらくして、「このコップが僕に見えるからだよ」と答えた。僕は、「じゃあ、ここにコップがあるのは、君が見えているからだね?」と確認すると、「yes」と言った。そこで、僕は、「じゃあ、目に見えるものが、あるものなんだね?」と尋ねてみた。やはり、彼はyesと言った。「目に見えるものが存在しているものだ、と言うのであれば、愛は存在しないんだね?」と僕が言うと、彼は、また苦笑して、「いや、愛は感じるんだ(I feel love)」、と、言った。「じゃあ、感じるものが存在するものなんだね?」と僕が問うと、再びうめいて、「分からない」と、答えてくれた。そうして、「僕も分からないんだ」と言って、お互いに笑いあった。こういう真摯で、考えることの好きな学生もいるのだ。そんな彼は、学食で、ヘルマンヘッセを読んでいた!
さて、僕の学生たちは、というと、午前中、二つの授業に参加した。一個目は、英会話の授業。二つ目は、日本語−英語の交換授業だった。
英会話の授業は、日本で13年英語を教えてきたという男性のエリック先生だった。やはり日本での生活が長いだけに、日本人に分かる英語を話してくれた。僕も、非常に勉強になった。「英語から英語を理解する」、という実践を行ってくれた。ここでも、僕は、エリック先生と教師として会話を行うことができた。これまでは、「学生」として、「旅行者」として、海外に来ていた。が、今回は、初めて、「教員」として、海外にやってきている。だから、交流する先生方も、スタッフの方も、カレッジの学生たちも、普段は見せない部分を見せてくれる。そこが、すごく面白い。もちろん驕っているわけではないが、「一学生」として見られない心地よさはあった。エリック先生は、大学院で国際経済学を学んだ方で、語学教師をしつつ、研究活動を行っているようだ。或る意味で、僕の同業者にあたる方で、僕の研究にも関心を示してくれていた。彼の目を見たとき、話さなくても分かる何かがあった気がした。「僕は、日本の中学校、高校、大学で英語を教えてきた。僕は、日本の中学生、高校生は大好きだ。けれど、大学生は・・・・」と言って、苦笑した。何か、伝わるものがあり、これ以上、僕は何も言わなかった。
二時間目は、ヒロコ・メリット先生のクラスの学生たちとの交換授業。日常会話の内容を、英語、日本語で、それぞれ表現して、それをお互いに学びあう、というすごい実践だった。特に、日本語の場合、「敬語」の単元だったので、日本の学生たち自身が、敬語を分からない。僕も自信がない・・・ 学生たちも、自分たちの言語の無知さに気付いたような、気付かないような・・・そんな感じだった。
午後は、フラダンスの実践。人生初のフラダンスだったので、僕も、学生に混じって、フラダンスに挑戦してみた。なかなか面白かった!
そして、夕方頃、コンドミニアムに帰宅。その後、夕食の買出しへ。
スーパーの帰り道、たまたま、通り過ぎた車のガソリンの入れ口に、奇妙な
ステッカーが貼ってあるのを、二人の学生が見つけた。「あれ、何なんだろう?」という疑問が浮かんだようだ。僕は、「じゃあ、聴いてみよう!」ということになって、運転手さんに声をかけた。「質問してもいいですか?」と尋ねると、中にいた運転手の女性は、「もちろん、いいわよ」と言ってくれた。「このガソリンの入り口についているステッカーは何なんですか?」と、聞くと、ステッカーをはがして、僕に渡してくれた。「Support our Troops」と書いてあった。聞くところによると、イラクにいる米軍の人やその家族の方々への応援の意思表明のステッカーなのだそうだ。「多くのアメリカ人は、このステッカーをつけているわよ」とのこと。さらに! このステッカーを僕の学生に
プレゼントしてくれたのだ! しかも! この女性、この島に住んでいて、小学二年生の担任をしている現役の小学校の先生だったのだ!! せっかくのチャンスと思い、学生たちと、この先生と立ち話をすることに成功した。「あなたにとって、良い先生ってどんな先生ですか?」と、聞くと、少し笑って、「私は良い先生じゃないわ」と言って、申し訳なさそうな表情を浮かべた。「とにかくeasyにやってるわ、easyにやることがいいわ。私は、先生の仕事が大好き。15年教員をやっているけど、本当に大好きだわ。ストレスはあるけれど、良いストレスなの!」と話してくれた。さらに、僕は、「日本には、児童虐待の問題があります。この島にはどんな子どもの問題がありますか?」と尋ねると、女性の先生は、「やっぱり、貧しい子どもの問題。それから、親がドラッグをやっている子どもの問題が深刻なのよ」と、この島の問題を教えてくれた。「親がドラッグをやってしまっている場合、祖父母が面倒をみることになるの。けれど、それができないなら、施設にあずけるしかないのよね」。
今回、短い滞在だが、この島の抱えている深い問題が、垣間見えてきた気がした。
僕らは、ハワイをどう認識しているのだろう。日本人にとって、ハワイはただの観光地でしかないのだろうか。ハワイも、人の暮らす一つの世界だ。人が暮らす場所には、問題がある。教育や福祉の問題は、世界のどこにでもある。子どもやお年寄りの問題は、どの国であっても、生じるものであり、人間に特有の悩み・困難・苦しみなのかもしれない。もちろん政治や法といった社会科学の問題であるが、またそれと同時に、人間学的な問題でもある。ハワイを学ぶことで、また世界に対する認識が一つ変った気がした。